東北大学工学部は2019年5月に創設100周年を迎えました。「研究第一主義」「門戸開放」「実学尊重」という東北大学の理念と精神の下、研究のための研究ではなく、世の中に役立つ研究を実践してきました。
次の100年に向け、工学部・工学研究科が掲げたスローガンは『未来への挑戦』。最先端の研究に取り組むとともに、社会や暮らしをより良く、快適・便利にする技術の創出を目指しています。
私たちの社会は今、資源の枯渇、エネルギー不足、気候変動とそれに伴う災害の激甚化、経済格差や少子高齢化、多様性の包摂など、互いに関連する複雑な問題を抱えています。
すべてを一度に解決する科学技術はもはや存在せず、私たち自身が明るいビジョンを描き出すことが必要です。
そんなワクワクするような考察を深める場として、東北大学工学部・工学研究科で始動したのが『未来洞察ラボ・FUSE』です。Future Society Envisioningの頭文字をとった『FUSE(フューズ)』は、希望と期待を込めた「未来の社会の姿」を想像し、それを実現へと引き寄せるための科学技術を一緒に考えていく活動です。
このウェブサイトでは、本学部・本研究科の教員や学生、オープンキャンパスに参加された高校生のみなさんと意見を交わし、共創したさまざまな未来像をギャラリー形式で展示しています。
さぁ、少し先の未来へ。
人と関わる「人間」「機械」「システム」「資源」「宇宙」についてとらわれのない自由な発想で、時には少し厳しい目線で、私たちの明日をEnvisioning~思い描いてみましょう。
東北大学工学研究科 技術社会システム専攻の集中講義『技術適応計画論』にて、工学研究科の学生がスペキュラティヴデザイン、トランジションデザインといった最新のデザイン理論を駆使して作り上げた未来社会の様相をギャラリー形式で展示しています。本講義では、工学系の学生が、協働的に未来の社会はどうなりうるのかを学際的に検討することで、生命倫理や経済といった、自分の研究分野や工学を超えた広い視座を獲得し、ますます複雑化する社会の中で、工学者としてイノベーションを起こすための価値創造力を鍛えます。
2040年、超高齢社会のもとでの新しい生き方とは?というお題から、私たちが議論の末に行き着いた空想の未来は、『高齢者の身体的制限や記憶力の低下がなくなった世界』です。
人生100年時代に、いつまでも若くありたいというニーズはますます高まり、それを実現する「記憶を保存・拡張する」という夢のような技術が生まれた未来。もしそんな技術が実現したら…の先に見えてきたのは、記憶を売買したり悪用したりする新しい社会問題と、倫理や法律面の議論の重要性です。
作成者:平島・李(東北大学大学院工学研究科 技術社会システム専攻)
指導教官:岩渕正樹、高橋信
高齢化に伴う記憶障害の問題を解決するべく、記憶保存・拡張のための技術が進化。脳にチップを埋め込み記憶能力を補助する「電脳化」インプラント手術により、脳波を機械で読み取ったり、逆に機械から脳波を操作したりと言ったブレイン・マシン・インタフェースが実現された。
この技術は当初、人生100年時代を最後まで快活に生きれるようにするための高齢者に向けた技術であったが、近年ではその年齢規制が緩和され、先進的な若者もインプラントを受けることができるようになった。
また、最新の技術では、記憶障害を解決するだけでなく、後頭部からデバイスを差し込むことで、他人の技術や記憶、経験をコピーすることができるようになった。
2000年代に始まったAIブームから約40年。AI技術および量子コンピュータが人間の脳と記憶の解明に飛躍的な貢献をし、それに伴い、記憶の保存・複製技術が進化した。
また、ロボット工学の進歩により、高齢者の身体的補助装置も発展を遂げ、高齢者は年齢による身体的制限や記憶力の低下を補うことができ、若者と同様のパフォーマンスを超長期的に維持することが可能となった。
個人が意識や記憶をビジネスとして販売し、知識や体験をやり取りするため、記憶の改ざんや混濁による身体的・金銭的被害が新たな社会問題となっている。
また、意図的に危険な記憶を流布し、閲覧者が精神障害をきたしたケースや、重要な機密情報が流出したケースも報告されており、国際的な倫理と記憶売買に関するルールの制定が急務である。
2040年1月22日
今朝5時23分、違法メモリー取引集団「K」が警察によって逮捕されました。
違法集団「K」は、法律上禁止の「死亡体験」メモリー又は未だグレーゾーンである犯罪シナリオを違法販売し、莫大な利益を得た同時に、過激なメモリー体験により多くの集団精神障害事件を引き起こした。
この事件をもって、今後の違法メモリー取引の取締強化と法律の強化が期待されます。
2040年7月16日
2037年にノーベル物理学賞を受賞したエルドリヒ・シュトレーマン博士氏が、7日朝、現地の病院で亡くなりました。131歳でした。
シュトレーマン氏は電脳第一世代として、積極的に現在の電脳文化の拡大に貢献し、自身もその功績が認められ、ノーベル物理学賞を手にしました。博士の遺志に従い、彼の脳は国際電脳研究所・D-RONに送られ、記憶の取り出しと機械化作業が進められるようです。博士は自身の記憶をコモンズ化し一般に公開することを生前に表明しており、彼の記憶は後世の人材育成に大きな役割を果たすでしょう。
22040年、AIや機械が人間の労働を代替した先の「人間の自己実現」とは?というお題から、私たちが議論の末に行き着いた空想の未来は、『思索という行為が究極的に追求される世界』です。
AIや機械が人間の生産的労働を代替し始め、人間を超越する頭脳と能力に人間は自身のインフラや食糧管理を一任することとしました。一見、ディストピア的に見えるその未来の中で見えてきたのは、人間が「考える」という行為を究極的に追求する、古代ギリシャの哲学者のような生き方です。
作成者:山田・趙・大槻(東北大学大学院工学研究科 技術社会システム専攻)
指導教官:岩渕正樹、高橋信
AIや機械が人間の生産的労働を代替し始め、人間を超越する頭脳と能力に人間は自身のインフラや食糧管理を一任することとした。
衣食住の心配と肉体労働から解放された人類は,人間としての究極の姿を追求しはじめた。「労働」の定義は,「思索」に置き換えられ,逆に思索していない状態は,違法行為として扱われることが政府内で検討されている。
人々の趣味として,議論の方法について上達することを目的としたe-論破スポーツが流行している。子供達のなりたい職業No.1はディスカッションストラテジストである。また見ず知らずの他人と対戦できるディスカッションロビーも流行っている。思索通貨(ソフィア)が使用されている。
日本では全ての肉体労働はGoogle社が提供するAIとロボットにより行われている.食料や日用品の無料自動配送のシステムが発達している。
人間同士のコミュニケーションツールとしてウェアラブルグラスが使用され,言葉によるコミュニケーションはもはや必要なくなった。
人々はツールを通して,相互通信を行い,脳内で議論を行う事ができる。
国外では国の業務を全て執行する機関としての会社同士が,従来の国境という概念に代わり,営業地域に関する紛争が発生する可能性が高い。
思索していない状態が一定時間以上継続している,あるいは思索することができなくなった場合には,思索通貨で反則金を支払うか,支払えない場合には頭脳警察が運営する純粋理性増大プログラムセンターへの送致のいずれかを選択する制度が検討されている。
一方でこれらの制度変更へ反対する過激な人々も現れている。
2040年3月20日
AIやロボットを生産しているGoogle社に,夏頃より政府の業務を全面的に委託する方針が,昨日閣議決定により示されました.政府によりますと,現在公務員が行っている一切の業務を今後同社のAIとロボットにより実施するとともに,公務員という地位を廃止する見込みとのことです.
また,これに伴い憲法を改正し,頭脳労働に専念する国民の義務を新たに明記すると同時に,この義務に対する法律上の違反行為と罰則を刑法上にあらたに設けることを検討していることが明らかにされました.
一方これらの政府方針に対し,経団連からは「国内産業の弱体化に繋がる」として,Google社1社への全面委託に対して反対の意思表明がなされ,同時に日弁連からも憲法や刑法の改正に対して「法律上の懸念がある」旨が示されました.
人間同士のコミュニケーションツールとしてウェアラブルグラスが使用され,言葉によるコミュニケーションはもはや必要ない.人々はツールを通して,相互に通信を行い,脳内で議論を行う事ができる.
これらの議論を通して思索は更に深まり,加速される.
2040年、ダイバーシティやジェンダー平等のもとで「自分らしく生きる」とは?というお題から、私たちが議論の末に行き着いた空想の未来は、『多様性が広く認められた世界』です。
ここで想像したのは、性別や国籍といった属性としての多様性だけでなく、人間が動物や植物にも身体を変更できる架空の技術です。それを空想して見えてきたのは、自分と異なる姿・性格の存在に対する寛容さとコミュニケーションの重要性です。それは現在の多様性の議論においても、変わらず重要な要素でしょう。
作成者:佐野・竹崎・町田(東北大学大学院工学研究科 技術社会システム専攻)
指導教官:岩渕正樹、高橋信
多様性が広く認められ、「差を認める」考え方が常識となった。それにより今まで曝け出せなかった部分を表に出すことができ、精神的な負担が減少した。また、性自認などの内面的な多様性だけでなく、身体変更技術の発展により、外見も動物や植物の姿に成り変わり、好きな姿で生きることができるようになった。一方「差を認める」ことにより個人の考えが過激化し、一部で「自己中心化」する人々が現れ、秩序が混乱している。
なりたい自分になることが出来る技術の発展。主に身体を変化させる技術や同性同士、異種同士でも子供が出来る技術が発展している。
場合によって自分のポジショニング(身体的特徴や性自認など)を意図的に変える人が現れるリスクや多様性を容認できない人に対する過度な圧力が発生するリスクが存在する。
2040年9月6日
本日中国にて、人類で初めての男性同士の妊娠・出産の成功例が確認されました。これまでは異なる性別同士でしか妊娠・出産を行うことができませんでしたが、男性用人工子宮の開発やiPS細胞の実用化に伴い、片方の男性側のiPS細胞から卵子を作って別の男性の精子と受精させることができるようになりました。
これに伴い、日本国内では婚姻や出産、養子縁組に関する憲法や法律を改正する動きが急速に広まっています。専門家の見通しによると、憲法・法律の改正が終わって日本国内で新技術を使うことが可能となるのは、およそ5年後であると推測されています。
身体変更歴、自身の性自認、生物自認を保険証に明記することの義務化
現在、多様性を認める動きが加速する一方で、自分のポジショニングをその場面に合わせて変える人が増加している。
自身の身体変更歴、性自認、生物自認を保険証に明記することを義務化し、自分のポジショニングを明確化する。
頭に専用の機械を装着し意思疎通をしたい動物、植物に取り付けることで自分の考えていること、相手の考えていることが伝わります。
意思疎通に、言葉はいらない
身体的特徴の変更には薬物投与が最も効果的だが、一方で多様な姿を求めるあまり,過剰な薬物投与が問題となっている.
東北大学工学研究科 東北大学オープンキャンパス2023で同名企画を実施し、訪れた高校生が想像し、画像生成AIを使って可視化した未来の写真をギャラリー形式で展示しています。
今後もFUSEでは、大学内外の様々な人たちと一緒に、ありたい未来を学際的に考え、未来を切り拓いていく人材を育てるための授業・ワークショップ・イベントを展開していきます。