機械がその優れた性能で、世界のあらゆる問題を処理できたら、
人間と社会はアップデートされるのか?
人工知能やロボット技術など、長足の進歩を遂げる機械。
将来はさらに進化を続けた機械が、人間がすぐには解けない問題をただちに解決してくれたり、仕事や面倒なことを引き受けてくれたり、身の回りのことをすべて担ってくれるようになるかもしれません。……それは私たちが目指す未来のように思えますが、果たしてそうなのでしょうか。
機械に任せられる場面が増えていく一方で、人間が困難を自力で乗り越える喜びや達成感、充足感を感じることが少なくなっていくかもしれません。
これまで人間が努力と忍耐の上に行ってきたことを、軽々とこなしていく機械を前にして、自身を無力に感じたり自信を喪失したりする人も出てくるかもしれません。
機械が広く深く社会に浸透していくことで、労働力不足解消、生産性や安全性の向上などのメリットが増幅されていく一方、事故や損害に対する責任の所在など、危うさも入り混じった社会になってしまう可能性も無視できません。
人間と機械の間のトラブルが多くなり、対立の構造を生むかもしれません。
『FUSE』では、機械が人間を超越していく進化とは別の、未来の「人間と機械」の可能性を思い描きました。
機械が人間の活動を代替する存在になるのではなく、機械が人間社会を理解し、人間ができることを増やしてくれたり、考えることを広げてくれたりする存在になってもらうことはできないでしょうか。
既知の問題を解くのではなく、未知の問題をともに発見、共有し、一緒に革新的な解決への道を模索するような関係性は築けないでしょうか。
私たちが抱える問題をただ額面通りに受け取り正確に処理してくれる機械と、問題の背景まで分け入り理解し、人間とともに向上しようとする機械。
あなたはどちらと暮らしたいですか?
現在の価値観の延伸によるビジョン:問題を肩代わりしてくれる機械
- 技術が、既知の作業や問題を並外れた性能で解決する機械を生み出し、人間の生産活動を代替する
- 機械と人間は異なるエンティティであり、機械は人間と対峙する
- 機械は超常的な性能で人間を置き去りにする
- 機械はノウ・ハウ(Know-How)を極め、与えられたゴールに対して優れた成果を出す
工学研究科が思い描く別のビジョン:問題を理解してくれる機械
- 技術が、人間と共に未知の可能性を発見する機械を生み出し、人間のバウンダリを拡張する
- 機械と人間は時に混ざり合うエンティティであり、機械と人間の境界は曖昧になる
- 機械が人間のレベルに合わせる
- 機械はノウ・ワイ(Know-Why)を人間と共に考え、与えられたゴール自体を設定し直す
望ましい方向性を考えるために考慮すべきバランス
- 正確な、スマートな ーーーーー 共進化的な
- 既存の性能の向上 ーーーーー 新しい性能の定義
- 人間にできないことを肩代わりしてあげる ーーーーー 人間でもできるように拡張してあげる
関連する工学研究科の研究分野の例
- 半導体・情報通信機器・ハードウェア
- ヒューマンインタフェース・サービス
- ソフトウェア・人工知能
- 人間 - 機械協調・人間拡張・ロボティクス